りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

砂漠のゲシュペンスト(フランク・シェッツィング)

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1991年、湾岸戦争クウェートで、瀕死の重傷を負った仲間を置き去りにした2人の傭兵。8年後、ケルンで静かに暮らしていた男エスカーが、拷問を受けたと思しき惨殺死体となって発見され、捜査が開始されます。

2日後、ケルンの女性探偵ヴェーラは、バドゲという男から、傭兵仲間であったマーマンを探して欲しいとの依頼を受けます。バドゲはマーマンに見つけられるより先に彼を探し出したいというのです。果たして、砂漠に置き去りにされたマーマンが復讐のためにエスカーを殺し、次いでバドゲのことも狙っているのか・・。

ところが事件は意外な展開を見せるのです。エスカーを殺害した犯人像は、死んだはずの別の男のようであり、マーマンの妹が誘拐されてしまう。果たして犯人は誰で、何が目的なのか・・。

本書はミステリ仕立てになっていますが、謎解きがメインの小説ではありませんね。ひとつには「テレビ画面で見る戦争」とまで言われた湾岸戦争や、揺籃期にあったヴァーチャル・ワールドなどによって、「見せられるものと真実との違い」が曖昧になっていく状況を批判しているようです。事実ヴェーラも、見せられた写真の欺瞞に気付いて真犯人にたどり着くのです。

もうひとつは、前作黒のトイフェルにも登場したような「絶対的な悪」の存在を悪魔のような所業をおこなう傭兵のなかに再現したかったように思えます。こちらはあまり成功していないようですが、中世と現代の違いでしょうか。

深海のYrr(イール)の大ヒットによって、著者の過去の作品も翻訳されつつあるのですが、やはり『Yrr』の水準には及びません。むしろ、これから書かれる作品に期待したいですね。

2009/12