りぼんの読書ノート

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パリンドローム(スチュワート・ウッズ)

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ステロイド剤には、肉体を強化する半面、凶暴性を増す副作用があるようです。本書は、その後起こった「O・J・シンプソン事件」を予告するかのような物語。

ステロイド剤を使用してスターとなったアメフト選手のベイカー・ラムジーから残虐な仕打ちを受けて離婚し、ジョージア州の沿岸にある未開の美しい島に逃れた元妻のエリザベス。しかし、ベイカーは自分の許を去った妻を許すことができず、離婚訴訟を担当した弁護士や、写真家のエリザベスが契約している出版社社長を殺害して、彼女を追ってくるのです。「追う夫と、逃げる妻」というサスペンスなのですが、驚くことに本書の主題は全然違うところにありました。

エリザベスが逃れた島は「カンバーランド島」という実在の島。小説で描かれた島の来歴は史実とは少々異なるようですが、独立前のアメリカで、イギリスから領主に任命された一族が200年以上もずっと所有し続けており、豊かな自然が手付かずで残されているそうです。

エリザベスは、90歳を越える島の長老アンガスの双子の孫ヘイミッシュとキアに引き合わされ、謎めいたキアと恋に落ちるのですが、この双子はとても仲が悪くて顔を合わせるのを避けるのはおろか、互いに相手が存在しないように振舞います。本書の真のテーマは、この双子を巡る謎にあったのでした。これまた100歳を超える元黒人奴隷で、今は島の長老的なモーゼスがその事情を知っていそうなのですが・・。

タイトルの「パリンドローム」とは「逆さ言葉」の意味だそうです。上から読んでも、下から読んでも同じ文章となる言葉のことですか、双子の謎はこの言葉に象徴されているんですね。もちろん、残虐な夫が島を訪れて、折りしも島を襲った台風のように平和な島を混乱に陥れる様子や、その顛末もしっかり描かれています。

2009/12