りぼんの読書ノート

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ゴルディオスの結び目(ベルンハルト・シュリンク)

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朗読者帰郷者の作者であるシュリンクさんは、アクション・ミステリも書いていたんですね。故郷のドイツを離れて南仏で翻訳業を営んでいるものの、仕事もなく、恋人にも去られて失意の日々をおくっていたゲオルグでしたが、突然事故死した翻訳事務所長の跡を継いだことから、幸運が舞い込んできます。

欧州4カ国で共同開発している新型軍用ヘリの設計図翻訳という大仕事が舞い込んできただけでなく、取引先の秘書であるフランソワーズとも親密になるのですが、一夜にして全てを失い、スパイのような振る舞いをしたフランソワーズも姿を消してしまいます。彼女を忘れられないゲオルグは、1枚の写真を手がかりにニューヨークへと飛ぶのですが、そこで発見した事実は、巨大企業と国家が複雑に絡み合う陰謀だったのです・・。

ドイツのミステリ文学賞であるクラウザー賞の受賞作ということですが、はっきり言ってそれほどの出来栄えではありません。たった1枚の写真を持って本名すら知らない女性と巡り合う過程は、主人公の執念は感じるものの、あまりにもご都合主義。真相を推理して(しかもその推理は肝心な部分が誤っていたのです)、プロの産業スパイや国家スパイに立ち向かうあたりは、およそ現実離れしています。「国家より企業の論理が優先される」アメリカを、不思議な存在として描こうとしたのでしょうか。

誰も解けなかった「ゴルディオスの結び目」を剣で断ち切ったアレキサンダーのように強引さだけで謀略の渦に飛び込んでいったゲオルグですが、「結果オーライ」なだけですね。やはり、人間が結んだ結び目は、丁寧にほどいていかなければならないようです。

2009/8