りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

やんごとなき読者(アラン・ベネット)

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これは「ローマの休日」を思わせてくれるファンタジーですね。といっても、主人公は若い王女でもなく、素敵な殿方が登場するわけでもありません。80歳の誕生日を控えたエリザベス二世が、読書にハマってしまうお話なんです。

逃げ出した飼い犬(もちろんコーギー)を追って、宮殿の勝手口にやってきた女王が出会ったのは巡回図書館。成り行きで1冊の本を借りた女王が読書の楽しみに目覚めます。

最初は退屈に思ったけれど、いったん読書に親しみ始めると「読み手」としての力量もついてくる。イアン・マキューアンカズオ・イシグロも読破。アリス・マンローとは、カナダ訪問の際に会談までしてしまう。残念ながらいかにも「女王好み」のように思われたジェーン・オースティンはイマイチ。身分の微妙な差異が生みだす悲喜劇を描く彼女の作風は、「女王以外はすべて臣民」というお立場からは理解しにくかったようです。^^

でも、女王は気づくのです。読書が与えてくれる楽しみや教えはすべての人に平等であること。一方で読書が奪うもの、変えてしまうものもあり、それは女王にとって何だったのか・・。

読書のせいで公務はおろそかになり、時間や身だしなみにも気を使わなくなり、側近たちは大慌てで「女王はもうろくされたのではないか」と心配したり、女王の読書を妨害しようとするのですが、そんなことは主題ではありません。

最後の最後にとっておきの一言が読者を魅了してくれます。まるでヘップバーンの、「ローマ!」にはじまるラストの名セリフのようにね。とっても楽しい本でした。

2009/8