りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

我らが影の声(ジョナサン・キャロル)

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キャロルの長編で読み残していた作品です。これが2作めだったんですね。

主人公ジョーは13歳の時に、魅力的ながら我がまま勝手な兄を事故で亡くしていました。というのは嘘で、自分が兄を線路の上で突き飛ばした結果、高圧線に触れて感電死してしまったのです。そのことはジョーの中で誰にも話せない暗い秘密になりました。

その後、兄とその友人たちをモチーフにして描いた小説が映画化され有名になったジョーは、仕事で訪れたウィーンに心惹かれます。魅力あるカップルのポールとインディアと知り合い楽しい日々を過ごしていたのですが、ポールの信頼を裏切ってインディアと不倫した途端、世界は反転してしまう。キャロル・ワールドの登場ですね。

2人は、妻と親友の不倫を知って憤死してしまったポールの怨念に追われます。それだけでなく、さらにもうひとつの裏切りを重ねてしまうことになるジョーの末路は・・。

「キャロル版の四谷怪談」ですね。インディアが「誰かからも少しずつ魔法を手にして都合よく生きていく男」と指摘したように、ジョーは自分勝手な人間なんです。最後は、その自分勝手さに復讐されることになるのですが、実際に復讐されたのは、幽霊たちからなのか、自分の罪の意識からなのか。ジョーと伊右衛門とが重なってみえてきます。なかなか怖い話です。

2009/8