りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

カフカ・セレクション1 時空/認知(フランツ・カフカ)

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カフカの全ての中短編を3冊に編集した企画の第1巻です。19世紀末のプラハに生まれ、幻想的で不条理な世界を描き続けたカフカの世界が、短いものでは1ページに満たない掌編からはじまって、数十ページの中篇まで、徐々にページ数が増えていく順番で纏められているんですね。中には明らかに中途で途切れていて、作品として完成されていないものもあるのですが、どの文章もカフカなんです(当たり前ですが・・)

本書の感想をくどくど述べるよりも、いかにもカフカらしい作品を丸写ししておきましょう。このような短い文章が、カフカという作家の本質であるようにも思えます。
それは、どの地域にあるのだろうか。私にはわからない。そこでは、すべてが相互に照応して、すべてがやわらかく相互にいりまじっている。こうした地域がどこかに存在していることを、私は知っている。いやそれどころか、それをこの眼でみてもいるのだが、それがどこにあるのかを知らないのだ。それでいて、私はそれに近づくことができないでいる。
遠くに町が見える。あれが、君がいうところの町なのだろうか。そうかもしれない。しかし、どうして君があそこに町を認めることができるのか、僕には理解できない。僕がそこにようやく何かを認めたのは、君が僕に注意を喚起してくれたからのことで、それにしたところで、せいぜい霧の中に浮かんでいる、いくつかのぼんやりした輪郭にすぎなかったのだから。ああ、どういたしまして、僕にははっきり見えるさ。それはひとつの山で、山頂に砦があって。斜面に村のような集落が広がっているよ。それならあの町だ、君のいうとおりだよ。それは。もともと大きな村なのさ。 
2009/8