りぼんの読書ノート

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英国太平記(小林正典)

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13世紀末、イングランドエドワード1世の侵略によって、一旦は主権を失ったスコットランドが、30年に渡る抗争の結果、再び独立を取り戻すまでの史劇です。

ウェールズを屈服させたイングランド王・エドワード1世は、スコットランド女王マーガレットの死去に伴って起きた王位継承者や有力貴族たちの抗争につけこんで、スコットランド支配に乗り出します。

王位継承権を有するベイリャルに王位を保証する代わりにイングランドへの臣従を誓わせ、彼がフランスと同盟して反旗を翻すと、直ちに圧倒的な武力で制圧。スコットランド総督による支配を確立して統治下におくのですが、フランスを相手にした戦争の戦費捻出をもくろんだ徴税の厳しさから、自然発生的な反乱が頻発。

反乱の中心人物となったのは、メル・ギブソンの映画「ブレイブ・ハート」で有名な平民のウィリアム・ウォレス。非正規軍を率いてゲリラ戦で小規模な勝利を繰り返し、ついには、スターリング・ブリッジの戦いでイングランド正規軍に圧勝。後にスコットランド王となるロバート・ブルースから国軍司令官に任じられます。

ウォレスはフォルカークの戦いで敗れて人気を失い、貴族の裏切りにあって捕縛・処刑されてしまいます。ロバート・ブルースも一時はイングランドに恭順を誓いますが、やがて叛旗を翻し、一時は少人数で山野を逃げ回るなどの辛酸をなめながらも、ついにはバノックバーンの決戦で圧勝し、完全な独立に向かうというのが歴史の概観。その後、イギリスはフランスとの100年戦争に突入していき、スコットランドへの進出は長期に渡って中断します。

ただ、イギリスの国境防備が手薄になると今度は、スコットランド兵がイギリス領を荒らしまわったそうですから、彼らが道義的に優れていたというわけでもありません。

当時のスコットランドイングランドの侵略と支配を許した背景には、貴族たちの反目があったようです。両国に領地を持つ貴族も多く、国家という概念が未成熟であった時代なので仕方ないのですが、その反省も籠めた「アーブロース宣言」に至るまでの30年間の歴史は、ノンフィクションとして楽しく読めました。

著者は、かつてスコットランドとの国境にほど近い場所(サンダーランド)に勤務した経験のある、元会社役員の方。当時から両国関係に興味を持っていて、本書の執筆に至ったそうです。夢を実現したのでしょうね。私も引退したら小説でも書いてみたいものですが、無理かな(笑)。

2009/7