りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ポトスライムの舟(津村記久子)

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2009年1月に芥川賞を受賞した作品ですが、最近の受賞作の中では「読めるほう」。

工場の契約社員、パソコン講師、カフェの店員と、非正規雇用者として3つの仕事を持っている29歳独身女性のナガセが主人公。工場での年収163万円と同額で、世界一周旅行ができると知り、それを目標に貯金を始めようとするのですが・・。

全然ピンとこない話です。実家で暮らしているので「清貧」とか「貧乏」とかは程遠い。「世界一周の夢」といっても、それを叶えるためにがむしゃらに働いている訳でもない。そもそも「世界一周」とは、「日常」を脱するためのひとつの「形」であって、ほかの何が目標でも構わないのであり、「世界一周後」に待っているはずの「新しい日常」に展望があるわけでもない。

ナガセの「世界一周は」、カソウスキの行方のイリエの「仮想恋愛」や、ミュージック・ブレス・ユーのアザミの「パンク・ロック」と一緒で、結局は周囲から自分を守るために身にまとう「シールド的な何か」にすぎないもの。

だから主人公が選ぶ「何か」に説得力があるのかどうかが、作品の価値を左右する。残念ながら、この作品のケースには共感もできないし、面白さも感じられませんでした。併録されている『十二月の窓辺』で、職場や上司からパワハラを受けているツガワがうじうじと苦しむ様子のほうが、まだリアル感あり。ただし、共感はしにくい。もっと元気な女性を描いて欲しいけど、この作者にそれを求めてはいけないのでしょう。

2009/7