りぼんの読書ノート

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四十七人の刺客(池宮彰一郎)

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もはや古典となっている「忠臣蔵」を、新しい視点で描いた小説です。そもそも、ただの仇討ちであれば「闇討ち」するチャンスなどいくらでもあったはずなのに、あえて「討ち入り」をかけて吉良上野介を討ち取る必要が、なぜあったのでしょう。著者は、これは「侍の本分をかけた合戦だった」と位置づけるのです。

己の権勢を誇示するために浅野内匠頭切腹を命じ、赤穂藩を取り潰した幕府に対する合戦とは大きく出たものですが、数十人の遺臣だけで幕府に正面きって戦いを挑めるわけもありません。合戦の相手として登場するのは、吉良家から養子にきた藩主をいただく米沢藩上杉家の家老で当代一の切れ者として名高い色部又四郎になります。彼が、藩主の養父家を守るため、理不尽な処置を側用人柳沢吉保に進言したことになってるんですね。

合戦と言うからには、軍資金も諜報活動も必要になります。塩相場で稼いだ裏金を用いて、刃傷沙汰の原因を「吉良の賄賂」との噂をふりまいて市井の人気を手に入れ、あえて討ち入りの噂を振りまくことによって、とばっちりを避けたい吉良家の近隣大名から、吉良家の屋敷替えを陳情させる。

一方の色部も、謙信以来の武門の意地をかけて、大石の挑戦を真っ向から受けて立ちます。大石の同志を離反させ、新しい吉良屋敷は米沢から呼び寄せた職人だけで作り上げて秘密を保ち、屋敷内に二重三重の仕掛けをほどこす。ついには、吉良上野介を隠居させて米沢に転居させるとの大技を仕掛けます。

最後に勝敗を分けたのは、鎖帷子を初めとする防具や防寒具などの準備を重ねた兵站力の差と、攻撃する戦略的・精神的優位だったのですが、著者は「その後」についても伝説を覆します。赤穂浪士たちの切腹にかかった時間の短さからして、彼らが預け入れられた諸家によって手厚く処遇されたとは考えにくく、ほとんど罪人のように首を討たれたに違いない・・と。そのあたりは、『仮名手本忠臣蔵』によって赤穂浪士人気が高まった後の改ざんであろう・・と。

「合戦」の後の「末路」も含めて、「伝説」に挑戦した作品です。ドラマチックな展開ではあるものの、彼らの行為が仇討ちだろうが合戦だろうが、所詮は絶望的な「武士の面子」の為に敵も味方も含めて、多くの人を死に至らしめたということなのですが・・。

2008/8