りぼんの読書ノート

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RURIKO(林真理子)

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林真理子さんの取材による「フィクション」の「浅丘ルリ子伝」ですが、限りなく真実に近いのではないかと思わされます。本人の了解もとっているのでしょうしね。

終戦間際の満州帝国。満州映画協会の理事長である甘粕正彦大杉栄伊藤野枝を殺害とされる人物)が、満州国の日本人官吏の娘であった4歳の美少女に目を留めて「いい女優になれる」と予言をしたところから伝説が始まります。

昭和29年、14歳になった信子(ルリ子の本名)は、美少女女優としてデビュー。抜群のスタイルと美貌とで瞬く間にスターの座に上り詰め、日本映画全盛期の日活を代表する女優として石原裕次郎小林旭らと競演し、さらには蔵原惟繕監督の一連の作品で、アクション映画の添え物という存在を脱して、本格的女優の道を歩みます。昭和46年には新進の石坂浩二と結婚しますが、程なく別居。後に離婚したのはまだ記憶に新しいですね。

本書では一貫して、本名の「信子」の視点で、一少女が大女優へと変身していく仮定が描かれます。少女の頃から憧れていた裕次郎への一途な思いと、裕次郎の妻となった北原三枝への複雑な感情。スクリーンの中でも実生活でも自他共に認める恋人であった小林旭との別れと、旭と結婚して別れた美空ひばりとの生涯に渡った心の交流など、「いかにも」という感じの物語は、ドラマチック。

「男には忘れられないことがある。それが済むまで、俺はきみを抱くことさえできない」とつぶやく裕次郎や、「想い出すってのは忘れていたからだろう。俺は忘れない。だから想い出すこともない」と去っていく小林旭。映画のワンシーンと信子の心情が交錯していきます。

私が知っている朝岡ルリ子は「寅さんのリリー役」程度なのですが、当時を知らない読者にも映画が熱かった時代を感じさせてくれるのは、林真理子さんの力量なのでしょう。周囲が変化していく中で、大女優として常にスックと立っているかのような「RURIKO」はとっても魅力的です。正直言うと、林さんの本音を出した、もっと辛口の「浅丘ルリ子評」を期待していたのですが(笑)。

それにしても、秋山庄太郎さんの撮影した表紙の写真は、ゾクッとするほど魅力的です。

2008/8