りぼんの読書ノート

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封印の島(ヴィクトリア・ヒスロップ)

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レトロさんに紹介してもらった本です。仕事にも恋人にも手ごたえを感じられないアレクシスは、母がいっさい語ってくれない過去を求めて母の故郷であるクレタ島の寒村プラカを訪れますが、母ソフィアの旧友が語ってくれた家族の歴史は、驚くべきものでした。

プラカ村の沖合いにあるスピナロンガ島には、1957年までハンセン病患者を隔離するコロニーが存在していました。アレクシスの曽祖父は、渡し舟で生活物資や新しく収容される患者を送ることを生業にしていたのですが、村で教師をしていた妻のエレニ(アレクシスの曽祖母)がハンセン病に罹ってしまい、島で生涯を終えたというのです。

自分の手で愛する妻を隔離コロニーに送るという、胸の張り裂けそうな思いをした曽祖父には、さらに試練が待ち受けていました。美しい2人の愛娘のうち、気位の高い姉のアンナは裕福な大地主の息子に見初められて結婚したのですが、心優しい妹のマリアもまた、結婚を直前にしてハンセン病に罹ってしまったのです・・。

マリア夫妻に育てられたアンナの母ソフィアは(どうしてそんなことになったのかが本書の鍵です)、長じてから聞いた自らの出自にショックを受け、アテネで知り合ったイギリス人の医師と結婚してギリシャを後にしてしまったのですが、ようやく娘とともに一族の人生と向き合うんですね。

基本的には、アンナとマリアという姉妹のハーレクイン的な物語なのですが、本書をそのレベルから一段抜けたものにしているのは、スピナロンガ島でエレナたちが取り組んだ、力強い自治を求める患者たちの姿であり、患者の人権を確保した医療体制を実現して、新薬を試みる医師たちの姿です。

本書にも詳しく描かれていますが、ハンセン病患者を他の病気と区別しているのは、宗教とも関係する「罪」と「差別」の意識であるだけでなく、国の政策です。1996年まで、ハンセン病患者の隔離政策が継続された日本では、マリアは生涯を隔離病棟で過ごさねばならなかったはず。ギリシャとの40年の差は、その人の人生という観点から見ると、決定的です。

2008/8