りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ロミオとロミオは永遠に(恩田陸)

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日本人だけが地球に居残り、膨大な化学物質や産業廃棄物の処理に従事する近未来。そこでエリートとなるには「大東京学園」の卒業総代になるしかなく、過酷な入学試験と厳しい生存競争が繰り広げられる学園生活をくぐり抜けなくてはなりませんでした。ところが、現代の科挙のような試験に合格して入学を果たしたアキラとシゲルが見たのは「昭和サブカルチャー」が支配する歪んだ世界だったのです。

学園のシンボルは新国会議事堂と新東京タワーと観覧車。「中央フリーウェイ」と名づけられた学園内の大通り。「総代になりたいか~っ!」と絶叫する教師・フクミツ。「さぁ~っ!今年の受験生人気リクエストナンバーワンは~っ」と実況するアカサカ。生徒に歪んだ愛を持ち、生徒指導に命をかける教師・タダノ(文学部只野教授がモデル)。アングラ世界に集って、コスプレやアニメやプロレスで憂さ晴らしする生徒たち。ローラーゲームのような、サバイバル競技によるクラス分け・・。

そんな中、学園を卒業するとの未来に絶望を感じて、脱走を試みる集団もありました。厳しい監視のもとの脱走はほとんど不可能であり、脱走の常習者たちは落ちコボレとして最下層の「新宿クラス」に編入されていましたが、脱走に成功すると「成仏」できるとの謎の伝説もあったのです。「新宿クラス」には近づかないようにしていたアキラとシゲルでしたが、物語の展開上、そうはいきませんね(笑)。脱走の特異日である10月の「大運動会」が近づくに連れて2人の周辺も慌しくなっていきます。果たして、脱走は成功するのでしょうか。そして、学園の秘密と、「成仏」という言葉の意味するものは・・。

恩田さんは、文庫版あとがきで「タイトルの意味もついに考え付きませんでした」との告白と一緒に、「書いた当初はハッピーエンドのつもりだったのに、読み直してみたらそうは思えなくなってしまった」と述べています。確かに、これはハッピーエンドとは言えないかもしれません。

2008/4