「エンダーシリーズ」から派生した、エンダーの副官であり影でもあったビーンを主人公とする「シャドウシリーズ」の3作め。エンダーが宇宙に去った後の地球でエンダーの兄であるピーターを補佐し、ピーターが地球統一政府のヘゲモンとして平和をもたらすまでを描くシリーズになる・・はずです。
前巻『シャドウ・オブ・ヘゲモン』では、異星人バガーによる侵略を逃れた地球が冷戦時代に逆戻りし、そこで暗躍したビーンの宿敵アシルの陰謀もあって、世界の地政図が大きく歪められてしまったところまでが描かれました。インドシナからインドまでが中国の支配下に入ったものの、アシル個人の野望は潰え去ったように見受けられたのですが・・。
本書ではついに、ビーンとアシルの関係に決着がつけられます。中国政府に逮捕されていたアシルをピーターが救出し、あろうことかヘゲモン政府の補佐官として用いるのですが、それもまた大きな陰謀の一環。再びペトラとともに逃亡を余儀なくされたビーンが頼った先は、長らく姿を消していたアラブ系のアーライだったのですが、バトルスクールの仲間内で一番の人格者であった彼は、イスラム世界で思わぬ地位についていました。
本書でも、「ウォーゲーム」的な要素がたっぷり盛り込まれています。アーライ、ビーン、ペトラによって指揮された、イスラム統一軍が中国に反攻します。前面反攻の先鋒が、中央アジア戦線から押し寄せるトルコ騎兵というのがいいですね。インド戦線では、国境の橋を守護する女神に祭り上げられたヴァーロミが、ゲリラ戦を繰り広げますし。
本書はアメリカのアフガニスタン侵攻中に書かれたそうです。イスラム勢力がイスラエル問題を解決して西洋との関係を大きく改善しているという近未来像は、敬虔なモルモン教徒である著者の祈りなのでしょう。「悪の帝国」として描かれる中国はたまったもんじゃありませんが・・。
2008/4(ヴァージニアのホテルにて)