りぼんの読書ノート

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ゴールデン・マン(フィリップ・K・ディック)

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1980年に出版された、ディック初期のSF7品を収めた短編集です。表題作が今年のGW映画「NEXT」の原作とのことで、最近復刊されました。

「ゴールデンマン」とは、全身が金色に輝いている黄金像のようなミュータントで、未来予知能力を持った存在です。近未来、核戦争後の北米では、さまざまなタイプのミュータントが生まれていたのですが、人類の将来にとって彼らが危険な存在であるとして、彼らの撲滅を目的とする組織も生まれていました。

読者は、ゴールデンマンを捕縛して抹殺しようとしている、正体不明の不気味な組織に対して反感を持つことを期待されているのでしょう。ミュータントだからといって、生命を奪うことは「悪」と決まっているのですから。著者の意図通り、途中まではゴールデンマンの逃亡を望みながら読んでいた読者は、彼の本質が明らかになった途端、背筋が寒くなる思いをするのではないでしょうか。実際、私もそうでした。

ネアンデルタール人は、クロマニヨン人をどう思って見ていたのでしょうか。人類が地球の主人の座を、いずれは次の進化生物に譲ることになるとしても、それがゴールデンマンのような存在でいいのか。ゴールデンマンの不気味さは、彼のもうひとつの特性にも現れます。それは、彼が子孫を残していくために必須と思われる特性なのですが・・。

表題作以外の収録作品は次の通りです。
「小さな黒い箱」:名作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか?』の原型となった短編。誰が「異種」であるかわからない状態での「狩り」というテーマが共通してます。

「リターンマッチ」:宇宙人がカジノに残したピンボールマシンが人間を襲う!

「妖精の王」:珍しくファンタジー。ガソリンスタンド経営者が受けた妖精からの依頼は?

「ヤンシーにならって」:思わぬ所に全体主義の萌芽が!モデルはルーズベルトですって。

「ふとした表紙に」:不死の存在が意外な形で現れた時、人は何を思うのか?

「融通のきかない機械」:無実の人を犯人に仕立て上げる機械を使った陰謀の顛末は?

もう一冊まだ人間じゃないという短編集も同時に復刊されました。そっちも楽しみです。

2008/4(成田-シカゴ間で)