りぼんの読書ノート

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廃墟の上でダンス(ミラーナ・テルローヴァ)

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1994年、14歳になった少女ミラーナは村恒例のダンスパーティを心待ちにしていたのに、その冬、パーティは開かれませんでした。始まったのは戦争だったのです。

14歳の冬、川に向かって平和を祈りながらも、「チェチェン人は世界から見捨てられている」と絶望を感じた少女は、10代から20代にかけての10年間を、ほとんど戦争の中で過ごしながら生き抜いて、ESF(国境なき学問)というNGOの支援でパリ留学を果たすことができました。彼女は現在、ジャーナリストとなって「グローズヌイにヨーロッパ文化センターを作りたい」との夢を実現するために奮闘しています。本書もその活動の一環。

彼女は言います。プーチンによってメディアも西洋ジャーナリストも締め出され、ゲットーのように隔離されている今のチェチェンは「しっかりと蓋で覆われた鍋」であり、TVをつければプーチンが欧米指導者と握手を交わす様子を見せ付けられるだけ。ヨーロッパもアメリカも国際機関もイスラム諸国も、もちろん民主国家ロシアも助けてくれないという孤立の中で、「世界にはあなた方を対等だと思い、手を差し伸べようとしている人々もいる」と伝えたいと。本書の出版も、そんな活動の一環です。(チベットも似た状況でしょうか。)

でも、彼女の戦火の中での10年間は、悲惨な思い出だけではありません。村を追われ、家を壊され、家族と引き裂かれ、親戚や知人や友人の訃報があいつぎ、男の子たちは志願して戦闘に出ていく「生活」の中でも、焼け残った木の新しい息吹を見つけ出し、破壊された大学の構内でフランス語を学ぶ喜びに触れることもできました。毎日無事に大学から帰宅できると限らないのに・・。戦争も、少女が大人になっていく喜びを奪うことまではできなかったのです。

1994年に開かれなかったダンスパーティは、2006年にミラーナの一時帰国の際に集まった同級生たちによって、廃墟となった建物の上で開かれることになります。多くの同級生が、すでに不在となっていたのですが・・。

もうひとつ。ミラーナが、2004年9月に起きた北オセチアの学校占拠事件に大きなショックを受けたことや、チェチェン人傀儡によるチェチェン人弾圧が強まっている現状に悲しみを深めていて、だからこそ「ヨーロッパ文化センター」の設立を急いでいることも記しておきましょう。「絶望がテロを生み、敵も味方も腐らせていく」のですから。

2008/4/16読了