りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

私自身の見えない徴(エイミー・ベンダー)

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評判の良かった『燃えるスカートの少女』は未読ですが、まず長編を読んでみました。自分の世界に閉じこもっていた20歳の女性が心を開き始めるという成長物語であり、本来なら読後感は爽やかであってもいいのですが、彼女の場合にはそうはなりません。

10歳の誕生日に、父が原因不明の病気になったことをきっかけに「やめること」を始めたモナ。ピアノもデザートも映画も陸上も、大好きなものを次々とやめていった彼女がやめられなかったのは、数学と木をノックすること。この二つは不安な世界で彼女に安心感を与えてくれるものだったのです。

20歳を迎えたモナは、小学校の算数教師として採用されます。かつてモナにも算数を教えてくれた前任の算数教師のジョーンズさんは、突然学校から逃げ出して、金物屋になってしまったのです。毎日の調子を首から下げた数字で表わすようになったジョーンズさんから、モナは斧を買い求めます。斧にこんこんとノックをするために・・。

不安定な子どもたちを相手に不安を掻き立てるかのようなモナの授業は、悲劇を引き起こすことになるのですが、この事件は彼女を成長させてくれたようです。「失うこと」への過度の怖れから開放されたモナは、「やめること」をやめることができるようになるのかもしれません。

とはいえ本書の中で語られるエピソードは、モナのものであれ、子どものものであれ、どれも精神的・肉体的にめちゃくちゃ痛々しいものばかり。この種の表現に苦痛を感じる人には、お奨めできません。私も途中、読んでて辛かった・・。『燃えるスカートの少女』には、手を出せないかも。

2008/3