りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

異邦人(パトリシア・コーンウェル)

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検屍官ケイ・スカーペッタ」シリーズの第15作は、前作神の手と同様に、シリーズ当初の雰囲気に先祖がえりしたような作品でした。ケイに悪意を持って彼女を貶め、彼女の人間関係を破壊しようとする人間の存在。被害者の遺体から採取された遺留品の科学的分析から、犯人を追い詰めていく様子。

でも、シリーズ当初の魅力は失せている感じはどうしても否めません。分析技術については、数時間で行えるようになった遺伝子検査や、より科学的になった血痕判定や、超大型顕微鏡の登場によって、格段の進歩が取り入れられているのですが、肝心の登場人物たちに魅力が失せちゃったんですね。

ケイもベントンもマリーノも中高年になって、人生の円熟期を迎えていて欲しいのに、相変わらず以前と似たり寄ったりの愛憎劇を繰り返しているのです。特にマリーノが肉体的にも精神的にも「醜い」としかいいようのない老い方をしていて今回ついにとんでもないことをしてしまうあたり、読むに耐えません。^^;

物語は、世界的に有名な女子テニスプレーヤーの惨殺事件から始まります。死体の眼窩に砂を詰めていたことから「砂男(サンドマン)」と呼ばれるようになる犯人は、イラク戦争のトラウマから立ち直れず、猟奇的殺人を犯すまでに病んだ男。でも犯人の正体よりも、犯人と密接な関わりを持っていた意外な人物の正体が明かされていく過程が、本書の読ませどころです。

それにしても、前作から登場している精神科医のマリリン・セルフはめちゃくちゃ嫌味な女性なのですが、キャラ的にはケイと似ているように思えるのは、私だけでしょうか。

2008/3