サンフランシスコのＩＴ企業に就職した女性プログラマのロイス。激務で消耗した彼女の心身を救ったのは、近所の宅配レストランのパンとスープでした。そしてアメリカを去ることになったマズグの店主から秘伝のパン種（サワードワ）を贈られたロイスに、奇跡が起こります。
夜中に歌い出した種から作ったパンには笑顔が刻まれ、人間味ゼロの職場でも大好評。カフェテリアのシェフに勧められて、権威あるファーマーズマーケットに出店希望を出してみたところ、対岸の島にある地下フードマーケットに選ばれてしまいます。本業のＩＴではロボットアームに卵割りをさせることに成功しますが、ここまできたら職業を選択しなくてはなりません。しかも、世界中から頻繁にメールを送ってくるマズグ店主もロイスに恋してしまったようなのです。
古今東西の料理古文書に詳しい司書のホラスや、細菌の達人である羊飼い兼チーズ職人のアグリッパなど、脇役も多彩です。最後には事件が起こって、先進的な地下マーケットの秘密の目的や、超一流店の主人でシスコのフード界を牛耳っているマダムの正体や、千年以上も伝わり続けているパン種の歴史なども明らかになります。その全てがロイスの後押しをしてくれるという、楽しいフード小説でした。
2019/9
