りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

失われた町(三崎亜記)

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評価の分かれる本だと思いますが、私は楽しく読めました。

冒頭の「プロローグまたはエピローグ」で主要な登場人物の名前だけ出しておいて、その後の各章で彼女らがプロジェクトと係わるようになった個人的な事情と思いを描いていく。それと並行して「町の消滅」という不思議な現象を説明していくスタイルが興味を繋いでくれたというところでしょうか。

登場人物たちの描き方は類型的に思えるのですが、背景に架空の世界があるので、まだ救われています。主要な「管理局」メンバーを紹介しておきましょう。「消滅に耐性がある」第一世代の圭子と、第二世代ののぞみ。「恋人の意識が町に囚われたまま」の茜。「町の消滅に関するメッセージ」を、町とともに消えた恋人から受け取った可奈。「本体と分体に分かれた」ひびき。

では「町の消滅」とは、いったい何なのでしょう。説明される限りでは、30年に一度、町の住民が跡形もなく消滅することであり、どの街が消滅するのかは予測不可能。消滅した町の痕跡を残しておくと町に呼ばれて取り込まれてしまう為、その町を存在しなかったことにするべく徹底した除去が必要。「町の消滅」に関することは最高機密であり、同時にタブー視されている・・。「町の消滅」に挑むのが「管理局」であり、絵画や音楽などの芸術の力によって、
次回の消滅から人々を守ろうとするのです。

こんな感じのよくわからない定義ですので、本書はSFではありません。では、文学的な意味合いで「町の消滅」が何かを象徴しているかというと、さっぱりわからないんです。無国籍の「居留地」などがある近未来的な時代設定も、意味不明。だから楽しくは読めたのですが、解答を求める人にはお奨めできませんね。

2008/1