りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

クレイ(デイヴィッド・アーモンド)

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1960年代、中学生となって視界が一気に広がり、今まで意識していなかった故郷や家族や隣人の貧しさを理解しはじめた少年の感覚を、みずみずしく描いた火を喰う者たち以来のアーモンド作品です。

本書の主人公もやはり、1960年代のイギリスの片田舎で生きる少年です。作者は、自分の少年時代の感覚を、何度も繰り返して描いているのでしょう。神父の手伝いをしながらも、タバコやワインをくすねたり、女の子を気にしはじめたり、ケンカをしたりしてごく普通に生きている少年ディヴィの近所に、スティーブンという変わった少年が引っ越してきてから、彼の生活は変わっていきます。

父を亡くし、母は精神を病み、親族の老婆のもとに引き取られてきたスティーブンは、自分を愛してくれなかったという両親を憎み、自分を追放した神学校を憎んでいます。犯罪と異端の匂いが漂うスティーブンに惹きつけられたディヴィは、彼の命じるままにある晩、粘土で作ったモンスターに命を吹き込む儀式をおこないます。

クレイと名づけたモンスターが動き出したように思えたディヴィは、途中で怖くなって逃げ出してしまうのですが、翌朝、苛めっ子のモウルディが事故死したことを知らされ、恐怖を覚えます。ディヴィはモウルディの死を願ったこともあったのですから・・。

クレイが歩き出し、ディヴィに向かって「ご主人様、ご命令を・・」と話し出す場面は決してホラーではありません。まだこの世界に「命」を繋ぎとめ切れていないクレイを放置して、そのまま「死」を迎えさせようとするディヴィの、繊細な心の動きにシンクロして、ドキドキしてしまいました。

ディヴィが見たものは幻覚だったのでしょうか。それとも・・。彼の心の中に罪の意識が残ったことは事実なのですが、ラストは穏やかです。両親の愛が、彼を救ってくれるはずですから。たぶん、つきあいはじめたばかりのエミリーの存在も。

2008/1