ファンタジー作家、SF作家として名高い著者による異次元旅行記。空港で何時間も足止めを食らっている時に、消化不良とストレスにさいなまれながら、硬い椅子に座っていることによって可能となる、「シータ・ドゥリープ式次元間移動法」。発見者の名前がついたこの方式で、異次元への旅ができるようになったのです。旅のお供に「ローナンのポケット次元ガイド」と通訳機があれば、安心して出発!
この次元旅行記。一読すると、どこかユーモラスな雰囲気が漂っているのです。トウモロコシの遺伝子を4%持っている異次元人。成長するに従って、沈黙するようになる異次元人。人類そっくりなのに、理解できない発想を持つ異次元人。クチバシを持ち、惑星の南から北に「渡り」をする異次元人。ほとんどの人が王族で、わすかの平民が注目されている次元・・。
でも、復讐によって成り立っている社会や、血なまぐさい歴史を持っている社会や、不眠実験によって天才を作ろうとした社会や、不死の人が住む島があるという社会のおぞましい真実が現れるに連れて、しだいに笑いはこわばってしまいます。
ただ、救いはあるのです。大半の次元で、戦争や、差別や、混乱や、遺伝子実験などの「過去」は既に克服され、今では落ち着いて成熟した社会生活が営まれているというのですから。
どの次元の物語も、『オールウェイズ・カミングホーム』で「未来の考古学」を綴った著者らしく、「異次元の考古学」的な論考がなされていて、思いつくままに書きなぐったようなものではないことは明らかです。著者はまだ、人間の未来に対する希望を捨ててはいませんね。
2008/1