りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

幸福な食卓(瀬尾まいこ)

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タイトルとは裏腹に、既に崩壊している家族。ある朝突然「父さんであることをやめようと思う」と宣言する父。家出中で一人別居していながらも、料理を届けに来る母。元天才児だったのに、何かに本気で取り組むことをやめてしまった兄。

そして、主人公である妹・佐和子。父や、母や、兄が、「家族の中での役割」を放棄しているのは、それぞれ「5年前の出来事」から立ち直ろうとするステップのようですが、佐和子にとっては、「妹」という軽い役割から逃れても得るものは少ない。そのかわり、彼女の受けた傷は心の中に深く沈潜しています。

ユーモアを交えて淡々と語る、作者の文体が、素晴らしい。よく読むと切ない話を、まるで明るい話のように読ませてくれるのです。最終章、新たな事件によって佐和子の心が暗転するまでは・・。

でも、作者の語り口は、ユーモアを失ってからも、まだまだ暖かい。「大きなものをなくしても、まだあった、大切なもの」。 うん、そうなんだよね、きっと。

兄のガールフレンドになるヨシコのキャラがいいな。家族に挨拶に来るときの土産が、賞味期限の迫った食用油の詰め合わせ。化粧がどぎつくて、小ずるく、兄以外にも二股も三股もかけている。でも、彼女が、兄を無気力な生活から目覚めさせちゃうのです。この本で唯一、生活感を感じさせてくれる女性だったのでした。^^

2006/1