りぼんの読書ノート

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まともな家の子供はいない(津村記久子)

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中学生のセキコの家は崩壊寸前。祖父から引き継いだ設計事務所を潰してしまい、転職を繰り返しながら現在は無職の父親は、セキコの部屋でゲーム浸りの毎日。そんな夫のグウタラぶりを許容し、「家計のことは子供が心配しなくてもいい」と言いながらも、何の裏付けも持っていない母親。それに加えて、周囲に取り入ることだけが上手な妹。

そんな理解不能で腹立たしい家族と家にいることが耐えられないセキコは、朝から晩まで図書館に逃げ込むような夏休みをすごしています。

彼女の数少ない友人たちの家庭も、普通ではありません。夫婦仲が悪く浪費癖のある母親を持つナガヨシ。不登校なのに両親から放置されているクレ。不倫をして相手の家庭を破綻させたのに平然として居座っている母親を持つ室田いつみ。夏休みの宿題を友人たちから写させてもらうという行動を通じて、周りの家庭も皆それぞれに普通ではないことを理解したことは、セキコにとってプラスになるのでしょうか。

併録されている「サバイブ」は、室田いつみが主人公。母親の不倫を発見し、性格ガキの兄と、兄が連れてきたガールフレンドの存在によって、家庭内の居場所を失いかけている少女の悩みには、どのような出口があるのでしょう。

セキコもいつみも、9歳の時に両親の離婚を経験した著者の分身のように思えてきます。いつみの母の浮気相手の娘で、いつみの兄にひどい目にあわされたことがある沙和子の「(嫌なことも)長くは続かない」という言葉は、著者が少女時代にたどりついた「悟り」なのかもしれません。

2016/9