りぼんの読書ノート

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チョコレートマウンテンに沈む夕日(スーザン・エルダーキン)

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チョコレートマウンテンと呼ばれる、アリゾナ砂漠の片隅での物語。現在の話と、脈絡のないように見える2つの過去の話が結びついて生み出されたのは、不思議な感動を呼ぶ1つの物語でした。

現在・・。幾千の星とサボテンの庭に囲まれたトレーラーハウスに暮らしている、孤独な中年男シオと、幼い少女ジョゼフィン(シュガー)。登場しない母親の存在は、謎に包まれています。そもそも、少女に惜しみない愛情を注ぐシオが、父親かどうかもわからないのです。存在しない母を慕う少女はやがて学校に入るものの、父母の愛を説く学校になじめないままティーンエイジャーとなり、母を偲ぶ唯一の手がかりと思える派手な靴を履いて、非行に走るようになります。

過去・・。母親を亡くしたばかりの孤独で不器用なシオは、苦手な人付き合いを避けるために、故郷のイギリスを離れてアリゾナの砂漠に移りますが、当初の思いに反して、圧倒的な孤独にせつなさはつのります。

もうひとつの過去・・。チェコの輸出用「靴の製造工場」で働き、退屈な毎日を暮らしているエヴァは、突然現れた流浪のアイスクリーム屋・ティボルに惹かれて、彼のヴァンに靴の箱をぶちまけて、一緒に国を出て行きます。ヴァンの冷凍庫に潜んで国境を抜けたため、すっかり凍えてしまったエヴァは、どこに行きたいか聞かれて答えるのです。「暑い砂漠に行きたい」と。

ふたつの過去が現在に繋がり、シュガーの過去も明らかになります。愛するシュガーの非行に心痛めたテオは、母親の話を伝える時期がきたと心を決めたところで物語は終わるのですが、思春期の娘が自分の出生の物語をどのように受け止めるのか気になります。読者は既に、彼女が決して愛されなかった娘ではなかったことを知ってはいるのですが・・。

2007/5