りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

グラスホッパー(伊坂幸太郎)

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犯罪者しか登場しない「伊坂ノワール」です。

妻をひき逃げされた復讐のため非合法組織に潜入した「鈴木」・・というとカッコいいけど、実際はど素人。正体が割れそうになって絶体絶命の鈴木の目の前で、なんとひき逃げ犯人であった、組織の御曹司が交通事故死。実はこれ「押し屋・槿(あさがお)」と呼ばれる殺し屋の仕業。鈴木は、押し屋を追いかけるハメになってしまいます。

それを目撃していた「自殺屋・鯨」。狙った者を自殺させるテクを持った凄腕の殺し屋ですが、自殺させた者の亡霊に悩まされる日々を清算しようと、昔、借りがあった「押し屋」を付け狙います。そこに「自分は操り人形では?」と悩む「ナイフ使い・蝉」がからみ、組織「令嬢」を含めて、4つ巴の対決!

グラスホッパーとはバッタのこと。群れの固体が増えすぎると群生種と呼ばれる変種を作り出し、あたりの食物を暗いつくしたあげく自らも滅びることになる。稠密になりすぎた人類は、滅びを内包した変種になっているのかもしれません。主人公たちの名前は植物(槿)、昆虫(蝉)、哺乳類(鯨)、人間(鈴木)。ついでに言うと、組織の手先は「比与子」だから鳥類かな。勝ち残るのは、誰なのでしょうか?

『重力ピエロ』のような軽妙さには欠けますが、伊坂さんの原点は、やっぱりストーリーテラーなんですね。細部まできっちりおさまって、気持ちいい展開です。冒頭に「犯罪者しか登場しない」と書きました。驚くべきことに本当にそうなんですよ。ラストまでじっくり味わってください。

2005/6