りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

重力ピエロ(伊坂幸太郎)

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重いテーマなのに、会話が軽妙なところがいいですね。村上春樹にも似た「上質な軽さ」を感じます。

泉水と春は異父兄弟。ある日、泉水の勤める遺伝子診断会社が放火されます。落書き消しを仕事にしている春は、連続放火と謎の落書きの関係に気付き、兄弟で放火犯を追うのですが、放火犯とその狙いは意外なものでした・・。

「捜査」の過程で紹介される、泉水と春の家族が素晴らしい。弟の春は、今は亡き母親がレイプされて身ごもった子なのですが、兄弟の仲のよさは、幼い時から揺るいでいません。どこかの相撲関係の兄弟に聞かせてあげたいくらいです。

特にお父さんがステキです。ガンで余命いくばくもない患者でありながら、全てを飲み込んだ上で、最上の決断を下してるんですね。この家族を作り上げて支えてきたのは、もちろんお父さん、あなたです。

タイトルは「空中ブランコを飛ぶピエロは、一瞬だけ重力を忘れることができる」との意味とのことですが、むしろ「大変なことこそ、軽々とクリアしなきゃいけない」ってことなのでしょう。春に「本当に深刻なことは陽気に伝えるべきなんだよ」とも言わせていますしね。

でも、大変なことを軽々とクリアしてみせるには、実力の裏づけが必要です。深刻なことを陽気に伝えられるようになるには、何が必要なのでしょう。ひょっとして「信頼」ですか?

2005/6