りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

彼方なる歌に耳を澄ませよ(アリステア・マクラウド)

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カナダ好きの友人と話していたら、カナダの本を読みたくなりました。本書は、カナダに移住したスコットランドハイランダー一族の物語。18世紀半ば、12人の子供たちと一匹の茶色い犬を連れて、一族の祖「キャラム」は、カナダ東端・ケープ・ブレトン島に移住。200年以上たち、一族がカナダのあちこちに広がった現在でも、彼らの心には、ケルト時代からの歌が流れているのです。

老いた祖母や身体を壊した兄の世話をしている歯科医が語る、一族と家族の微笑ましくもどこか悲しいエピソードには、独立の気概を持ちながらも、英仏の間を揺れ動かざるを得なかったスコットランドの複雑な歴史が反映されているかのようです。

一族から「小さな赤毛の子」とだけ呼ばれていたため、小学校に入る時に自分の名前を知らなかった男の子の話。スコットランドに旅して自分にそっくりな人たちと出会い、既に廃墟となっている一族の故郷を訪ねた双子の妹の話。灯台守をしていた両親が氷原に落ちて亡くなった後も灯台で主人を待ち続け、新しく来た住人に吠えかかって撃たれてしまった何代目かの茶色い犬の話・・。

短編作家が13年かけて書きあげた唯一の長編は、短編の煌きを保ちながら、悠久の大河を思わせる小説に仕上がっています。

『百年の誤読』と『文学賞メッタ斬り』の豊崎姉さんが書いていました。「この小説には、愛する主人たちを乗せてカナダへ向かう小船のあとを追って、どこまでも泳ぎ続ける犬がいる。情けが深すぎて頑張りすぎる茶色い犬たちと、そんな犬とそっくりな人たちがいる。彼らの歌声は・・不思議に優しく懐かしい」。彼女が褒めることもあるんですね(笑)。

2005/6