りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

シャングリ・ラ(池上永一)

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地球温暖化が進むと、こんな世界になってしまうのでしょうか。今でも炭素税導入の構想はありますが、この究極の形態である「経済炭素」が国際経済のベースとなっている世界。炭素排出量が枠を超えると、国連が管理している炭素指数に懲罰的炭素が課せられて、国民経済の破綻すらありえる世界。

世界に先んじて炭素の空中固定を実用化した日本は炭素大国となっていますが、既に熱帯都市となってしまった東京の地上は人の住める街ではありません。特権階級は天空高くそびえる巨大な積層都市アトラスに移住し、熱帯雨林と化した地上に残るのは難民とゲリラばかり。

そんな日本で、3人の少女が合いまみえます。ブーメランを武器として20万のゲリラに君臨する少女・國子。嘘をついた者に残酷な死を与える力を持つ十二単姿の少女・美邦。炭素経済を覆すパワーを持つAIである「メデューサ」システムを作り上げて飼いならす10歳の天才少女・香凛。

異なる陣営に属していた少女たちが見出したアトラスの真実は、日本の「国産み神話」と関係した不思議な世界でした。荒廃した地球にバランスを取り戻させるのは、古代の力なのかもしれませんが、まさか沖縄出身の作家が「皇室信仰」を持ち出すとは・・。池上さんが上空から見た東京の中心地は、皇居だったそうです。だから「皇居=約束の地=皇室パワー」となったようですが、こういう図式は、すでに半村良が『産霊山秘録』で書いてますね。

國子を育てたニューハーフのモモコやミーコ、美邦の女官である性格歪んだ小夜子や、同じく性格歪んだスーパーレディ涼子などサブキャラもたくさん登場して楽しいけど、ちょっと支離滅裂。特に、小夜子と涼子の不死身ぶりには唖然としちゃいます。まぁ、未来の「創世伝説」を書いたわけですから、「カオス的世界」と思えば、いいのでしょうが・・。

こういうのも悪くはないけど、『風車祭(カジマヤ-)』や、『バガージマヌパナス』の土着性には及びません。

2007/3