りぼんの読書ノート

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ダイナスティ(デビッド・S・ランデス)

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「同族企業」という言葉には、時代遅れのイメージがあります。大会社たるものは株式公開して社会的責任にこたえるべきであり、有能な人材を外部から導入しないと経営の多角化や技術の進歩に追いついていけない・・というあたりが、「世間の常識」でしょうか。最近では、三洋電機西武鉄道パロマ不二家と続いた、同族企業の不祥事も、記憶に新しいところでしょう。

ところが「常識」に反して、同族企業はまだまだ巨大企業として世界経済の中で重要な役割を果たしているようです。世界の売上高上位500社の半分で、創業者一族が経営参加しており、日本でも全企業数の94%が、上場企業に限定しても40%が同族企業であるというのですから。

本書は、会社の草創期に「偉大な個人」が必要であったとの共通項を持つ、金融業(信用力)、自動車(発明家)、天然資源(幸運?)の、同族企業について事例研究を行ったものです。銀行業からは「ベアリング」、「ロスチャイルド」、「モルガン」。自動車からは「フォード」や「トヨタ」など。資源関係では「ロックフェラー」、「グッゲンハイム」など。

結論としては、どうやら同族経営を3代続けるのは難しいようです。今でも創業者一族が経営に携わっているのはロスチャイルドだけですが、往年のパワーはありませんね。強いて言えば、トヨタも該当することになるのかな。

経営の複雑化のみならず、「成功による富」自体が、創業者の子孫から経営への意欲を奪ってしまうようです。ロックフェラーも、モルガンも、アニェリも、莫大な財産を有するダイナスティを引き継いだ者たちは、政治や趣味の世界に走って、企業経営的には象徴的存在になっていきます。日本の、岩崎家、三井家、住友家も同じです。中国の歴代王朝や徳川幕府でも、実権は臣下に移っていった訳ですし。古川柳を思い出しました。「唐様で売り家と書く三代目」。^^;

しかしながら、著者は、同族企業は依然重要であると主張します。アジア、アフリカ、南米などの経済発展途上国では、さしあたって、同族企業によるビジネスを起こすことが必要というのです。確かにそうかもしれませんね。韓国でも台湾でも同族企業の勢いはすさまじいものがありますから。

2007/3