りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

つぼみ(宮下奈都)

イメージ 1

羊と鋼の森本屋大賞を受賞したり、直木賞候補になったりして乗っている著者ですが、デビュー作のスコーレNo.4も素晴らしい作品でした。デビュー直後の時期に書かれた6編の短編からなる本書では、『スコーレNo.4』のスピンオフ作品も3編含まれています。花開く前の「つぼみ状態」を大切にしている作家だということが、よく理解できる構成でした。

「手を挙げて」
華道の講師をしている和歌子は、『スコーレNo.4』の主人公・麻子の叔母。恋人に対しても、自分をちゃんと理解して欲しいという辛口な点や、クールな発言の裏でさまざまな思いが渦巻いている様子は、やはり麻子と共通していますね。

「あのひとの娘」
主人公はやはり華道の講師をしている美奈子。彼女が昔好きだった津川くんとは、麻子の父親です。麻子の妹である紗英を生徒に迎えて、基本や過程を大切にしていた津川くんのことを思い出すとともに、正直で体当たりな紗英を支える友人のことも高く評価するのです。「いくつになっても大事なことには出会い続ける」のです。

「まだまだ、」
麻子の妹の紗英は、周囲の期待に添うような行動や発言をすることのない、芯の強い女性なのですね。「三年にひとりくらいの割合で、私を毛嫌いするひとに出くわしてきた」という相手と対決する場面は痛快です。

「晴れた日に生まれたこども」
大学を出て薬の卸問屋で事務職として働く晴子は、高校も会社も辞めてニート状態の弟・晴彦のことが気になっています。しかし晴彦の能力は、人を理解する優しさだったのですね。でもニート状態は脱して欲しいもの。

「なつかしいひと」
他界した母の故郷に住む祖父母の家に、父と妹と移り住んだ少年・太一が、書店で不思議な少女と出会います。彼女に教えてもらった本をもとにして太一に友人ができていく過程は、ほのぼのとしていますね。著者は、太一は息子の分身であり、少女は母親としての自分の分身であるようなことを述べていました。

「ヒロミの旦那のやさおとこ」
いつも自然体で生きているような昔の同級生ヒロミが、結婚して地元に帰ってきたのですが、なぜか失踪。ヒロミの旦那から泣きつかれた主人公は、奇妙な交友関係を結ぶのですが・・。優しさと情けなさは裏表なのですね。

2018/6