りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

沢村貞子という人(山崎洋子)

イメージ 1

昭和32年から30数年に渡って沢村貞子のマネージャーを務め、最期まで看取った著者が、「美しく生きて美しく老いた」名女優の思い出を綴ったエッセイです。横濱唐人お吉異聞など横浜を舞台にした小説を多く著している山崎洋子さんとは、同姓同名の別人です。

朝ドラ「おていちゃん」のモデルにもなった沢村貞子は有名ですが、代表作と聞かれると思い浮かびません。戦前の左翼劇団出身の彼女は、戦後も長く映画・TV作品に出演し続けましたが、「名脇役」だったのですね。おそらく数本は見ているはずですが。

彼女の人生は、本人いわく「結構面白い人生だったわ」とのことですが、その内容は濃いですね。関東大震災第二次世界大戦、思想犯としての刑務所暮らし、女優という職業、エッセイスト、結婚、離婚などが凝縮されているのです。著者いわく「浅草下町育ちの土壌の上に『結構面白い人生』があり、旺盛な知識欲と、物事を客観的にみる目が加味され、撹拌されて」、女優としてオールマイティになったのではないかとのことです。

60歳になって再々婚した3人目の夫・大橋恭彦氏との関係は、「古典的な尽くす妻」のようですが、エッセイ『老いの道づれ』の最後に「では、あなた・・さようならじゃなくて、ありがとう」と記したほどですから、一途に惚れぬいた相手を世話し尽くしたということなのでしょう。

そして著者の沢村貞子さんへの思いは、「美しく老いるなんてありえない、と言っていたけれど、あなたは死ぬまで美しかった」との一文に凝縮されているようです。高齢化社会を迎えて「終活」という言葉も生まれていますが、周囲の人への思いやりと、暮らしの細やかな楽しみ方を忘れないことこそが、究極の終活と思えてきます。

2017/8