りぼんの読書ノート

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八万遠(やまと)田牧大和

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痛快時代小説を書きまくっている著者によるファンタジーですが、著者らしい奔放さが顕れてくるのは後半になってから。前半の、本書を貫いている世界観を説明する部分は、少々くどくなってしまった感があります。

「天神」の子孫である上王が、宗教によって統治する島国「八万遠(やまと)」が建国されてから千年。平和が続いていた中で、地方の直轄州から火の手が上がります。新興領の墨州で、正当な跡継ぎであった弟を殺害し、父親を幽閉して権力を握った簒奪者・源一郎が、勢力拡大を図って隣国の炎州への侵攻を開始したのです。

このあたりの「国取物語」は面白いのです。墨州の源一郎が、陰湿な権謀術数を用いる隣国や既存宗教勢力の「上道」らに対して、遥かに上回るスケールの策謀をもって勝利していく様子は、著者の面目躍如とする所でしょう。大義名分を得て、東の大国ある雪州に中立を守らせ、とはいえ、源一郎は信長っぽいし、参謀の市松は秀吉っぽい。

本書をファンタジーとしているのは、宗教的な権威で全国を統治している「上王」と、雪州王妃で雪州の聖山信仰の巫女「珠姫」と嫡男・徳之進の存在なのですが、本書ではあまり出番はなかったですね。表面上は友好関係にある墨州領主・源一郎と雪州領主・甲之介の関係は、源一郎が仕組んだ策謀のせいで、いつ壊れるかわからない危うさを秘めています。続編があるのでしょうが、やはりこの著者にファンタジーは似合わないように思えます。

2017/8