りぼんの読書ノート

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紅霞後宮物語(雪村花菜)

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第2回富士見ラノベ文芸大賞金賞受賞作です。タイトルからし酒見賢一さんのデビュー作後宮小説を彷彿とさせてくれますが、内容的にもグレードアップしています。後宮に召し出された田舎娘「銀河」が反乱に際して「後宮軍」を組織する酒見さんの作品に対して、こちらはもともと軍人の女性が後宮に入るのですから。

不世出の軍人と噂される33歳の関小玉は、かつての同僚で、とんでもなく傍系なのに突然皇帝になってしまった文林から、軍人皇后になってくるよう依頼されます。出身階級と性別のため、これ以上出世できない小玉の才を惜しんだ措置だというのですが、どこまで個人的感情があるのかは微妙なところ。

いきなり夫婦となった文林との関係に戸惑いながらも、持ち前の前向きさと大雑把さを武器にして、女性の嫉妬と欲望が渦巻く後宮を混乱に陥れる小玉の活躍ぶりが前半のハイライト。小玉に対して宝塚の男役に対するような若い妃たちなども現れる始末。しかし彼女の存在は、後宮に潜む「闇」を目覚めさせてしまうのです。

ラノベなので丁寧に書き込みすぎている部分も目立つのですが、著者の文才は確かなものですね。「人は変わるのではなく足されていく」という哲学を示しながら、「その優しい答えに救われない人もいる」という世界観にも好感が持てます。「中国史と、後宮ものと、戦う女性が好き」という著者の「複雑極まりない思考の結晶」である本書の世界に、すんなりと浸ることができました。続編もあるとのことです。

2017/7