りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

宿神 第1巻(夢枕獏)

イメージ 1

日本史上、稀に見る混乱期であった平安末期に、北面の武士という役職を捨てて出家した西行を主人公とする大河伝奇小説です。全4巻。

第1巻で描かれるのは、同い年の同僚である平清盛との篤い友情と、主君・鳥羽上皇中宮である17歳年上の待賢門院璋子への激しい恋情。後に出家して西行となる佐藤義清は、まだ10代後半から20代前半の若武者にすぎません。

和歌、蹴鞠、弓矢の道に秀でた義清は、ある秘密を抱えていました。それは「あれ」が見えること。則清が蹴鞠に没頭する際、待賢門院が物苦しく琴を爪弾く際に立ち現れる「あれ」とは、どうやら人知を超えた「ものの気配」のことであり、後に「宿神」と名付けられる存在です。待賢門院も「あれ」を見ることができると知った義清は、いっそう想いを募らせるのですが、もちろんそれは叶わぬ恋。

第1巻では義清と対照的な存在として、やはり北面の武士であった遠藤盛遠のエピソードが語られます。同僚の源渡の妻である袈裟御前に横恋慕した結果、ついには彼女を殺害してしまい、死を求めて熊野へと去った盛遠は、後の文覚上人です。義清の心に潜む闇は、盛遠の狂気と同質のものなのでしょうが、両者を隔てる一線とは何だったのか。このあたりも続巻で描かれていくのでしょう。

2017/5