りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

翼をください(原田マハ)

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社主から記者失格の烙印を押された新米記者の翔子は、記者生命をかけて、社主が尊敬する先輩という「山田順平」なる人物の取材に臨みます。彼は、70年前に新聞社が主催した「ニッポン号」による世界初の世界一周飛行に随行したカメラマンでした。当時の写真を手にした翔子は、パイロット服に身を包んだ白人女性のような画像が修正削除されていることに気づきます。

このような導入部から始まる物語は、アメリカの女性飛行士であるエイミー・イーグルウィングの物語へと移って行きます。女性初の世界一周飛行を成し遂げながら、南太平洋で行方不明となったアメリア・エアハートをモデルとする主人公は、「ニッポン号」とともにどのような奇跡を成し遂げるのでしょう。このあたりが小説の醍醐味ですね。

なぜエイミーは行方不明とならざるを得なかったのか。なぜ日本にいたのか。彼女は「ニッポン号」の世界一周でどのような役割を果たすのか。そして彼女は、どのように物語から退場していくのか。かなりしっかりした構成に基づいて書かれた小説です。そして、この取材は翔子に何をもたらすことになるのでしょう。

アラスカへと向かうアリューシャン上空の荒天、魔のアンデス越え、ナチスドイツのポーランド侵攻によるルート変更、ベンガル湾上空での戦闘機の襲撃の場面など、当時のフライト感覚もよく描かれていると思います。

実際の「ニッポン号」の世界一周は、太平洋戦争直前の国威発揚や敵情視察などの目的もあったはず。実際にも海軍の整備士や通信士が乗り込んでおり、登場人物全員が平和を愛する自由主義者であることに矛盾を感じる声もあるようですが、そこは気にするポイントではないのでしょう。史実にヒントを得て、現代的な視点で再構成した小説なのですから。

2016/11