りぼんの読書ノート

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あかりの湖畔(青山七恵)

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物語の舞台となっている湖は、榛名湖のようです。一度だけ行ったことがありますが、夏でも涼しく、ロープウェイ駅付近を除いては観光客も多くなかったように記憶しています。

本書の主人公は、遊歩道の奥にある「お休み処・風弓亭」を営む26歳の長女・灯子。母親は15年前に失踪し、父親は温泉街の観光案内所に勤務。次女の悠は女優を目指すために恋人の隆史と上京することを計画中。高校生の三女・花映も、漠然と外の世界に憧れています。ただひとり、生まれ育った場所で変わらない生活を望んでいた灯子でしたが、ひとりの青年・辰生の登場によって物語が動き始めます。

父親、姉妹、親戚、親友、幼馴染み、妹の恋人、訪問者、追憶の中の母・・。さまざまな人に対する複雑な感情の中で身動きがとれなくなっている灯子の気持ちが、丁寧に描写されていきます。彼女は、妹の恋人に対する想いや、母の失踪の原因が自分にあるのではないかという不安を、ずっと口に出せないでいるのです。

しかし、苦しんでいるのは灯子だけではありませんでした。失踪した母からの手紙を誰にも見せずにいた父親も、やはり母の失踪に責任を感じていた悠も、自分の出自を隠しているかのような辰生も、灯子への想いを胸に秘め続けている幼馴染みの淳次も、それぞれに秘密を抱えていたのです。

やがて灯子の気持ちが爆発する瞬間がやってきます。「みんなが自分の都合でいろんなことを隠している。人の苦しさより自分の苦しさばっかり大事にするから、手遅れになる」と・・。それは彼女にとって、解放に結びついていくのでしょうか。ストーリー的には少々ものたりなさも感じるのですが、平易で誠実な文章とはよくマッチしています。

2016/8