りぼんの読書ノート

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今昔物語(福永武彦訳)日本文学全集8

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平安時代末期に成立したと言われる「今昔物語」には、仏教的・教訓的な説話のみならず、とにかく不思議で楽しい話が多く含まれています。

まずは変身譚を紹介しましょう。「女の執念が凝って蛇になる話」は安珍清姫の「道成寺」の原型ですね。逆に「恋の虜になって仏道に励む話」では、女の姿になった仏が若い僧の勉学を促します。「高陽川の狐が滝口の武士をだます話」では狐の目的は悪ふざけなのでしょうか。

この時代の旅は、賊難と紙一重のようです。「危うく賊難を逃れた夫婦」のような夫婦間の信頼は大切だし、「身代わりとなって死んだ女」の自己犠牲で助けられることもあったのでしょう。「わが子を捨てて逃げた女」が貞節を褒められるのは、今とは倫理観が異なっていますね。もちろん「寝ている間に板に押し殺され」ない用心も必要です。「大江山の藪の中で起こった話」は芥川龍之介黒澤明に用いられました。

奇縁宿縁の物語は、いつの世でも興味がわくもの。「雨宿りの宿に一夜を契った女」は藤原氏の嫁になり、その娘は后になってしまいます。「葦を刈る夫にめぐりあう話」に登場するのは、大富豪と再婚した元妻と落ちぶれ果てた元夫。「生き埋めにされた子」は奇跡的に助かって出世していきます。

ただ単に不思議な話も多いですね。「異端の術で瓜を盗まれる話」は中国起源の物語でしょうか。「何者とも知れぬ女盗賊」に攫われて賊の一味にされた男は、いい思いもしたのでしょう。しかし「天狗に狂った染殿の后」や「安積山で死ぬ大納言の娘」は、完全にストーカーの被害者です。

最後に「東国の武士が一騎打ちをする話」を紹介しておきましょう。ライバル意識を燃やす武士団がついに衝突というところで、トップ同士が一騎打ちで決着をつけることを提案。互いに譲らぬ名勝負の末に引き分けた2人は、親友となるのです。青春ドラマの元祖のような物語です。

2016/7