りぼんの読書ノート

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日本霊異記(伊藤比呂美訳)日本文学全集8

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日本文学全集の第8巻は「説話集」です。奈良薬師寺の僧、景戒による『日本霊異記』は822年成立と言われますから、これは古いですね。これ以前の「日本文学」は、『記紀』や『万葉集』くらいしかないのですから。

「説話」ですので、勧善懲悪を説いて仏法僧を敬うように仕向けるエピソードが記されるべきなのですが、必ずしも枠に収まりきっていません。訳者の伊藤比呂美さんは、「玉石混交」で「ハチャメチャ」で「荒唐無稽」な作品も多いと述べていますが、そこが面白いところですね。煩悩と我欲と性欲に満ちた物語こそが、楽しいのです。

雄略天皇の命令で雷をとらえる話」に始まり、「狐を妻にもらう話」はなぜかハッピーエンド。「風に乗って昇天する女の話」は、サイモン&ガーファンクルの「四月になれば彼女は」や松任谷由美の「ひこうき雲」を思わせます。

行基を羨む僧の地獄めぐり」や「天女の像に恋する話」はかなり生々しいのですが、「蛇の愛欲の話」や「邪淫の瞬間に死ぬ話」となるともはや惨劇です。悪いのは蛇や男なのに、被害者となる女も救われないのは気の毒なもの。一方で「ふわふわの絹布のようなのに強力な女」も登場。

「仏像の折れた腕が痛みを訴える」というモチーフは、後にいろいろな作品に現れますし、「野ざらしの髑髏の舌が語り出す」となると、妖星伝の「カタリ」の元ネタですね。

そして景戒自身が見た夢は「災いの前兆の後で実際の災いが訪れる」との教訓となり、「滅びることを悲しむだけではいけない。修行せよ、怖れよ」と締めくくられます。途中の脱線具合も含めて、よく纏まっていると思えますが、訳者のセレクションが巧みなせいかもしれません。

2016/7