りぼんの読書ノート

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春や春(森谷明子)

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子規を輩出した松山市で、「俳句甲子園」というイベントが開催されているそうです。1チーム5人で、季題を用いた俳句および感想を闘わせる競技です。本書の登場人物によると、王朝時代にはじまった「歌合せ」に近いのかもしれません。千年の黙に始まる「紫式部シリーズ」の著者にふさわしい題材に思えます。

父親から俳句を学んだ女子高生の茜は、俳句を「第二文学」と否定する国語教師と対立したことをきっかけに、トーコという理解者を得ます。俳句同好会を設立した2人のもとに集まってきたのは、文学少女の瑞穂、書道有段者の真名、キーボード奏者の理香、ディベートが得意な夏樹。本書は、個性豊かな少女たちが、俳句の世界を知ることで成長していく青春小説なのです。

少女たちの「イニシエーション小説」にしては、登場人物たちのキャラが薄く、エピソードが平板であるようにも思えますが、そこは仕方ないのでしょう。本書のかなりの部分が、俳句という世界の魅力を伝えるために費やされているのですから。「俳句バトル」に勝つための「技法」が初心者向けに思えてしまうのも、やはり許容範囲ですね。

ついでながら本書の各章の章題は、それぞれ有名な俳句から採られています。作者名だけ紹介しておくと、正岡子規、富安風生、三橋鷹女、松尾芭蕉種田山頭火、嶋田麻耶子。なお「タイトル」になっている「春や春春爛漫の桜かな」という詞は、俳句ではなくて寮歌の一節だとのこと。本書が「青春小説寄り」であることを示しているようです。

2016/5