著者自らが「稗史物語」という作品ですから、「伝記」ではありません。「大筋の歴史的事実は押さえつつも、史料に書き残されていない部分には奔放な想像力を働かせ、奇想もふんだんに盛り込んだ」エンターテインメント小説ですが、「親鸞が目指した根本的な部分については、絶対に道筋を外さないように書いた」とのことです。
大きく分けて、2つの物語が含まれます。ひとつは、若いころからの数々の因縁に決着をつける物語。かつて「専修念仏」を否定した慈円の流れを汲む怪僧や、「悪人正機」を試そうとするかのような極悪人の黒面法師らは、執拗に親鸞を付け狙うのですが・・。一方で、かつて親鸞に拒絶されて転落していった義妹の鹿野や、誘惑者として登場した傀儡女の玉虫の「その後」も明らかにされます。
もうひとつは、東国に派遣した実子・善鸞を義絶するに至る物語。なぜ唱導によって身を立てようとした善鸞は、親鸞面授の弟子たちとの軋轢を起こして、異議異端の道に堕ちてしまったのか。老いてなお、自分の教えが届かないもどかしさを親鸞は抱え続けるようです。
そして、避けられない別れの日がやってくるのですが、末娘の覚信尼や孫の如信が親鸞の教えを守り継ぐ道筋は既に示されています。ただ、越後に留まり続けた妻・恵心との関係は、最後まで謎だったようです。ついでながら、表紙裏に描かれた登場人物たちの表情がいいですね。舞台のフィナーレのような明るさを感じます。
2016/1