りぼんの読書ノート

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ちゃんちゃら(朝井まかて)

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「ちゃら」というのは、元浮浪児だった主人公の「ちゃんちゃらおかしいや」という口癖のこと。本名も年齢も不明だった少年には「ちゃら」という名前がついてしまったのです。植木屋の辰三こと「植辰」に拾われて育てられ、いっぱしの職人になりかけている「ちゃら」が、本当に大切なものを見つけるまでの物語。

「植辰一家」のメンバーは、男所帯を切り回す一人娘のお百合に、水の流れを読むのが得意な福助、元穴太衆で石組の得意な玄林。京で修業し、施主の気持ちを汲んだ仕事をする辰三親方のもとで、賑やかで楽しく、いい仕事をしている一家なのですが、彼らを敵視する存在が現れます。古法に則った作庭指南を謳う嵯峨流正法=白楊なる人物が、植辰一家を苦境に追いつめていくのです。彼の正体と目的は何なのでしょうか。

後半は一気に「対決色」が強くなり、ハラハラドキドキの展開になっていくのですが、作庭の薀蓄と江戸の人情に溢れた前半がいいですね。「庭仕事は空仕事」との言葉からは、頭上を覆う枝葉を落とした瞬間に、緑の合間から見える「四角い青空」がイメージできます。

お百合に思いを寄せる船宿船頭の五郎太、植辰と懇意の「小川町のご隠居」こと元与力の是沢与右衛門、その甥で頭はいいけど腕は立たない伊織、薬問屋の娘で眼病を患うお留都、疫病が蔓延する中で庶民を救おうと奔走する尼僧の妙青尼など、魅力的なキャラも大勢登場します。後に直木賞を受賞する片鱗が、既に見て取れますね。

2015/7