物語の舞台はテネシー州東部のアパラチア山中。家族も家も失ったレスター・バラードという「ヒルビリー」の若者が、おぞましい破滅へと突き進んでいく物語。しかしこの主人公には、「転落」とか「葛藤」などという言葉は似合いません。無知で野蛮で歪んだ性欲を持つ、動物以下の存在のようなレスターは、「内面」など持っていないようなのです。社会との接点を全て失った主人公が異常な犯罪者となっていく過程は、ごく自然に描かれていきます。
本書の凄さは、そんなレスターを「あなたによく似た神の子」と言い切ってしまった点にあるようです。目を覆いたくなるようなレスターの行為と共通するものを、私たちは隠し持っていないのか。そんな問いかけが読者に提示されているのでしょう。
2014/5