りぼんの読書ノート

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ガソリン生活(伊坂幸太郎)

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「伊坂版CARS」ともいうべき、クルマに「人格?」を持たせた本書は、人間たちの物語に対してクルマたちが噂や論評を加えたり、ご主人たちの運命に気を揉んだりしながら展開される、楽しいミステリです。

本書の語り手である緑色のデミオの持ち主は望月家。母兄姉弟の四人家族ながら、一番大人なのはまだ10歳の弟・亨。免許取立ての兄・良夫が、仙台の名家出身の元女優・荒木翠をクルマに乗せたところから物語が始まります。翌朝になって飛び込んできたのは、芸能記者に追われた荒木翠が不倫相手と事故死という、驚愕のニュース。

荒木翠と最後に会ったとのことで芸能記者から取材を受けた兄弟ですが、望月家にはたいへんな問題が持ち上がっていました。長女・まどかの交際相手が、極悪人の手下から強要された仕事に巻き込まれようとしてたのです。そして亨にもイジメの影が・・。

歯医者のカルテ、ネットの情報、ATM強盗、ファミレスの写真、死体の発見など、貨物列車やタクシーが流してくれる噂話などが、人間の善意を信じられるような結末に向かって全部繋がっていく心地よさは、伊坂さんの得意とするところですね。これを「予定調和」として物足りなく思うかどうかが、本書の評価に関する分水嶺

「激突」や「トランスフォーマー」などクルマが主人公となる映画が伝説となっていたり、ワイパーやボンネットやナビなどのクルマ関連用語を用いた感情表現など、独特のクルマ目線も楽しい限り。本書のクルマたちは、人間の愚かさを批判しながらも人間を慕い続ける「賢いペット」のような存在として描かれています。伊坂バージョンの『我輩は猫である』という感じでしょうか。

2014/5