りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

萌神分魂譜(笙野頼子)

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金毘羅海底八幡宮を繋ぐ小説です。

「客人権現(まろうどごんげん)」は究極の「萌神」です。性的な要素をいっさい持つことなく、ひたすら姫を愛し続け、姫に尽くし続ける、本物の身体を持たない神。「千客万来」を悲しく願う娼婦たちに信仰され、娼婦たちに仕える神。前書で自分を「金比羅」であると気づいた著者が、彼女を「姫」と崇めて実在化した「権現」と対面します。「姫」は既に「婆姫」になっていましたが・・。

とはいえ、「姫」の身体にも乗り移ることができる「権現」とは、本来の意味での他者なのか。「俺」によって語られる「彼」とは、もうひとりの「俺」にすぎないのか。時として主体と客体が入り混じる人称の混乱が、主観と客観の境界を崩していきます。だからこその「分魂」。

祖母をはじめとする家族との確執、愛する猫たちの相次ぐ死、さらには猫殺しを公言する作家(最近亡くなられました。ご冥福をお祈りいたします)との対決などに疲れ果て、死体のようになっていたときに、自宅の台所に顕れた「権現」こそが、自分自身の「分魂」なのでしょう。

「萌え」によって救済された著者は、商品化された「萌え」に対しても攻撃を加えていきます。笙野頼子は常に闘い続けているのです。いつも思うのですが、この作家の著作は元気なときでないと読めません。

2014/3