りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

ようこそ、わが家へ(池井戸潤)

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2013年の新刊文庫ですが、雑誌に連載されていたのは2005~2006年。大幅に加筆修正されているのでしょうが、もともとは空飛ぶタイヤよりも前に書かれた作品です。

銀行で出世コースに乗れず、中小企業に総務部長として出向している平凡で真面目なサラリーマン、倉田太一に2つの事件が襲い掛かってきます。ひとつは駅のホームで割り込みを注意した男に逆恨みされ、家や家族にまでストーカー被害が及んできたこと。花壇は踏み荒らされ、瀕死のネコが投げ込まれ、車は傷つけられ、盗聴器まで仕掛けられるのです。穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意します。

もうひとつは出向先の会社で起きた不正疑惑問題。部下の経理の女性からも後押しされて、不正の追及を試みるのですが、相手は社長から信頼されている営業部長。切り返されて逆に追い込まれてしまいます。果たして気弱な主人公は、公私両面の窮地を脱することができるのでしょうか。

やはり銀行出身の著者ですから、不正疑惑追及のほうが筆慣れしていますね。最終的には、取引先の倒産リスクを織り込んだ架空在庫の転売問題に潜む不正を見抜くのですが、犯人の過去を織り込んだり、中小企業経営の実態も織り込んで、必ずしも「銀行の視点=正義」とはしていないのが、この著者らしい点です。犯人を弁護する余地などないストーカー問題でも、一方的に「家族=正義」としなかったことと重なります。

多少盛り込みすぎの嫌いはありましたが、「銀行からの出向者」という微妙な立場の描き方も、リアルな雰囲気が出ていたように思えます。実際の銀行マンも、決して「半沢直樹」のような強者ばかりではないのですから。

2014/1