りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

魚舟・獣舟(上田早夕里)

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華竜の宮で2010年度の日本SF大賞を受賞した著者の短編集です。

「魚舟・獣船」
『華竜の宮』に先立って同書の世界観を形作った短編です。世界の大半が海に沈んだ未来世界で生き延びるべく遺伝子改良された海洋民は、魚舟と呼ばれる巨大な魚の背中で暮らしています。魚舟の正体は驚くべき存在なのですが、持ち主に出会えなかった魚は獣船となって独自の進化を果たしていくのですが、やがて人類に敵対する存在に・・。

「饗応」
人間と見分けのつかないロボットは生物をペットにすることは許されず、人造猫を飼う・・というと『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』と似た世界ですね。

「くさびらの道」
人を苗床として育つ新種の茸の繁殖によって、人類は滅亡の危機を迎えようとしています。茸に肉親や恋人を奪われた男たちはどうふるまうのでしょう。寄生蜂が人類を脅かすブラック・アゲートと似た世界ですが、こちらのほうが幻想的な結末です。どちらも怖いですが・・。

「真朱の街」
サイバネティックスの発達によって「人間」の概念を越えた人々が登場するとき、古式豊かな妖怪たちもまた姿を現します。妖怪と人類が共存する未来を舞台に、人が人でいられる限界を探るような物語です。

ブルーグラス
音に反応して育つブルーグラスに別れた恋人との感傷を抱く男が、かつて珊瑚礁に捨てたブルーグラスを探して潜水します。結末が妙にリアリスティックな作品です

「小鳥の墓」
未読ですが火星ダークバラードという作品のスピンアウト小説で、ある登場人物の少年時代の物語だそうです。治安も風紀も悪化した近未来社会で、選ばれた人だけが住むことを許される街で育った少年は幸福だったのでしょうか。充足感を求めた少年が出て行った「街の外」もまた管理社会にすぎなかったと気づかされたとき、彼の悲しく非情な世界観が形作られていきます。

2013/12