りぼんの読書ノート

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都市と都市(チャイナ・ミエヴィル)

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東欧の架空の都市国家「ベジェル」と「ウル・コーマ」を舞台にしたミステリ仕立ての小説ですが、この2つの都市の関係こそが本書のテーマそのものです。2つの都市は地理的にほぼ同じ場所にあって入り組んだ境界を持ち、たとえば隣人が異国人だったりしているというのですから。

都市のほとんどの場所から一歩踏み出せば国境を越えてしまうのですが、それは法的には許されないこと。それぞれの都市の住民は相手側の建物や人を見ないようにして生活しており、相手側に入り込むことはもちろん、見ることすら重大な犯罪として、超越的かつ絶対的な権限を持つ「ブリーチ」に連れ去られてしまうという不条理な世界。

そんな中で、ウル・コーマで殺害された外国人女子学生の死体がベジェルで遺棄された事件が発生。ベジェルのボルル警部補は、死体を運搬したバンは正規に国境を越えているため「ブリーチ」には抵触していないと聞かされて困惑しながらも、ウル・コーマに「出国」して「国際協力捜査」を開始。そこで明らかになってきたのは、その女子学生は「第三の都市オルツィニー」の存在を研究しており、両国に存在する「統一派」と連絡を取り合っていたという事実。そして第2、第3の行方不明者が発生します。

オルツィニー」は存在するのか。それは「ブリーチ」と同一のものなのか。それとも敵対するものなのか。そもそも2つの都市の奇妙な関係には何の意味があるのか。重要な参考人をウル・コーマからベジェルに引き渡すタイミングで起きた大混乱の中で何者かに襲撃されたボルルは、「ブリーチ」行為を迫られることになるのですが・・。

著者は、「同じ都市に住んでいる人間とネズミでは見るものが違うだろう」との発想から本書の着想を得たそうです。では「自分が見たいものだけを見る」傾向を持つ人間同士には何が起こるのか。そもそも私たちは隣人を知っているのか。隣人が外国人ならどうなのか。そういった疑問の上に成立して、不条理な世界に説得力を持たせることに成功した本書は、やはり「SF」なのです。

2013/12