りぼんの読書ノート

Yahooブログから移行してきた読書ノートです

2013/8 色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)

大阪の夏は暑い。去年でも悶死するほどだったのに、今年は狂死するほど暑い。でも、本の世界はもっと熱いのです。たとえエアコンの効いた車内や室内で読んでいても。

大作家たちの新作はもちろん素晴らしかったけど、須賀しのぶさんや紅玉いづきさんといった、比較的若い作家の作品も楽しめました。
1.色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年(村上春樹)
本書もまた、村上さん得意の「喪失と回復の物語」のようです。といって良いのでしょう。大学2年の夏に男女4人の親友たちから理由も告げられず突然絶縁された主人公が、16年ぶりにかつての仲間を訪れる「巡礼の旅」に出る物語。未解決の謎は数多く遺されますし、震災と原発についての著者の考えも見えるようで見えない作品です。しかし間違いなく、現代の普遍的なテーマに対する著者の姿勢は見えてくる・・はずです。

2.LAヴァイス(トマス・ピンチョン)
ピンチョンが著した探偵小説は、古典的なハードボイルド小説のプロットに忠実ですが、一筋縄ではいきません。「1970年のLA」にふさわしいキーワードがこれでもかというほどに散りばめられる中で、読者は本筋を容易に見失ってしまいます。輝かしかった「60年代」の象徴は形骸化して商業主義や体制文化に組みこまれていく中では、ハードボイルドもパロディ化を免れません。ここにもまた「時代の瑕疵」に対する著者の姿勢が見られるのです。

3.母の遺産-新聞小説(水村美苗)
幼い頃から娘たちを振り回してきた自分本位な母との葛藤の終着駅は、痴呆と老醜に耐える介護の日々。「ママ、いったいいつになったら死んでくれるの?」という自問は、露悪的というよりむしろリアル。母と娘は永遠のライバルなのでしょうか。さらに背景にあるのは、100年以上前の新聞小説金色夜叉』に触発されて「お宮は自分のこと」と思い込んだ祖母に始まる女3代に渡る確執。多様な内容を盛り込みながら「小説の力の再肯定」に行きつく著者の筆力は確かです。



2013/8/29