りぼんの読書ノート

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双頭のバビロン(皆川博子)

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世紀末のウィーン。オーストリア貴族グリースバッハへ家の血をひく双子は身体の一部が繋がっていた「シャムの双子」でした。2人を切り離す手術は成功し、ひとりは名家の跡取りゲオルグとして、もうひとりのユリアンは存在を抹消されてボヘミア癲狂院「芸術家の家」で育てられます。

オルグは陸軍学校に入学したものの決闘騒ぎを起こして退学。新大陸に渡ってハリウッドで映画俳優、後に映画監督として成功を収めながらも撮影所で火災を起こして干され、新天地を求めて、彼を助ける助監督のエーゴン・リーベンとともに上海へ。京劇で見た男装の女傑「ムーラン」伝説に魅かれて映画化を試みます。

ユリアンは中性的な謎の少年ツヴィンゲルと共に育てられますが、アメリカで消息を絶ったゲオルグに成りすまして第1次世界大戦に従軍。しかし偶然見たアメリカ映画にゲオルグを発見し、戦後に没落した男爵家を離れてアメリカへと向かいます。さらにゲオルグを追って上海へ。

互いの生死も知らずにいても、2人の双子の間には不思議な共鳴作用が起き続けていました。遠く離れていても2人の道がいずれ交差することは運命付けられていたのですが、そこに「鏡像的」な環境が深く関わってきます。とりわけ上海の娼婦と白人宣教師の間に産み落とされて、はじめはユリアンの友人に、後に本名を名乗ってゲオルグの助監督となっていたツヴィンゲルの存在は、2人の運命に決定的な影響を与えることになるのです。

そして物語は、ゲオルグの最高傑作となるべき映画「ムーラン」のガラ・プレミアの夜に全ての謎が明らかになるエンディングへとなだれ込んでいくのでした・・。

世紀末のウィーンから黄金時代のハリウッドへ、そして魔都上海へと繋がっていく本書は、歴史小説の要素も、ミステリの要素も、幻想・耽美・ホラーの要素も併せ持つ「物語世界」へと読者を誘います。タイトルもまた、ハプスブルグ家の紋章である「双頭の鷲」や、「双頭の双子」や、「ハリウッドと上海という2つの魔都」などの複合的な意味を併せ持っているようです。

2013/3