りぼんの読書ノート

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天使のゲーム(カルロス・ルイス・サフォン)

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風の影に続いて、バルセロナの「忘れられた本の墓場」が登場する作品ですが、時代は30年ほど遡って1917年。17歳の孤児ダビッドは雑用係を務めていた新聞社から短編を書くチャンスを与えらます。いつしか本格小説をものしたいとの願いを秘めつつB級小説を書きまくるのですが、悪条件の契約に縛られて果たせないまま、脳腫瘍で余命いくばくもないと知らされてしまいます。

絶望に陥ったダビッドの前に現れた謎の編集者コレッリは、「新しい宗教の創造」ともいえる大作を書くことを条件に、ダビッドに健康と自由と大金を与えるというのですが、それは悪魔に魂を売るともいえる契約でした。果たして、ダビッドの住む「塔の館」の以前の所有者マラルスカという男は、不可思議で断片的な詩作を遺して非業の死を遂げたというのです。

コレッリの注文に応えつつも彼の秘めた謎を追うダビッドの周囲で、次々と不幸が巻き起こります。悪徳出版社主が火事で亡くなったのはともかく、孤児だったダビッドが父とも慕う「センペーレ書店」の店主は殺害され、ダビッドが真に愛したクリスティーナは狂気に陥り行方不明に。著書『不滅の光』を「本の墓場」に置き去りにする決意をしたダビッドは、魂の自由を守れるのでしょうか。

まるで「ファウスト」のようなプロットなのですが、この物語は現実なのか、全てが妄想なのか。クリスティーナを義性にしたダビッドへの罰が、あらためてクリスティーナの生涯を見守ることという歪んだ仕掛けと、「天使のバッジ」の謎に、読者はとことん混乱させられてしまいます。バルセロナに降りかかった真の罰は、内戦ではなかったかとの思いもよぎります。

重いテーマを含む本書の救いは、ダビッドに強引に弟子入りした少女イサベッラの存在ですね。天真爛漫で賢く生き生きとした少女の明るさこそが、魔力を打ち破る力だったのかもしれません。彼女と『風の影』の主人公ダニエルとの関係が、エピローグで明かされますのでお楽しみに。

2013/3